地盤防災工学
水際低平地を中心として高度の発展を遂げ、急速に周辺丘陵地へと拡大する都市域では、地震時液状化、宅地造成地盤崩壊、人工・自然斜面崩壊など、地盤災害の危険性が増しています。これらの地盤災害に対する都市域の脆弱性診断技術と危険度評価技術の高度化、地盤基礎構造物の性能向上技術の開発が急務となっています。
当研究室では、このような防災工学上の課題に対して、有効応力解析に基づく非線形動的解析による脆弱性診断と性能評価、GISや都市情報データベースによる広域地盤モデルの構築、遠心力載荷装置を用いた地盤災害の再現模型実験など、あらゆる角度から取組んでいます。
教員
渦岡 良介 ( Ryosuke UZUOKA )
教授(防災研究所)
研究テーマ
降雨・地震・津波などによる複合災害に関する研究。降雨後の地震,あるいは地震後の降雨・津波などの異なる外力が時間差で作用する場合の地盤挙動を明らかにする。このため,有限変形多孔質体理論に基づき,土構造物・杭基礎構造物・護岸構造物などの多様な構造物を対象として飽和・不飽和地盤の動的解析手法の開発を進めている。また,数値解析手法のV&V(検証と妥当性の確認)を地盤解析に応用して,不確実性の評価に基づく地盤解析手法の信頼性向上を目指す。
連絡先
宇治キャンパス 防災研究所本館 E-415D
TEL: 0774-38-4090
FAX: 0774-38-4094
E-mail: uzuoka.ryosuke.6zkyoto-u.ac.jp
上田 恭平 ( Kyohei UEDA )
准教授(防災研究所)
研究テーマ
液状化などの地盤の強非線形現象に伴う地盤・構造物系の動的変形機構の解明、および大地震時の地盤・構造物系の被害程度予測の高精度化が主な研究テーマです。これまで、有限変形理論に基づく砂のような粒状体の力学モデルの改良、および同モデルを組み込んだ地盤応答解析手法の開発等を行ってきました。遠心模型実験や室内試験といった実験的アプローチと理論的・解析的アプローチをうまくカップリングすることで、力学現象の本質(面白さ)を探るとともに、地盤・構造物系の地震時被害の軽減に向けた研究を進めていきたいと考えています。
連絡先
宇治キャンパス 防災研究所本館 E-414D
TEL: 0774-38-4092
FAX: 0774-38-4094
E-mail: ueda.kyohei.2vkyoto-u.ac.jp
研究テーマ・開発紹介
大地震時の地盤・構造物系の被災程度予測
1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震は多くの犠牲者を出すとともに、各種ライフラインや橋梁、高架道路、岸壁、護岸などの社会基盤施設にも壊滅的な被害をもたらした。その中で、埋立地の岸壁や護岸あるいは河川堤防などの地盤・構造物系は、基礎地盤の液状化により大きな残留変位が生じて、多数の施設がその機能を失った。また、その復旧には長時間を要し、復旧費用は膨大なものになった。この事態を受け、大地震による地盤・構造物系の被害程度推定を精度よく行うことに対する社会的な要請が高まった。
このような地盤災害分野の課題を解決するため、多重せん断機構に基づく砂の力学モデルを有限要素法に組み込んだ数値解析プログラムFLIPを開発し、各種社会基盤施設の被害解析および被害程度予測に力を発揮している。例として、図-1に兵庫県南部地震において被災した神戸大橋の解析結果を、図-2に重力式岸壁の隅角部の挙動に着目した遠心模型実験の再現解析の結果を示す(いずれの図においても、赤いところは過剰間隙水圧が上昇していることを示す)。
図-1 兵庫県南部地震による神戸大橋の解析
図-2 地震時の岸壁周辺部の3次元液状化解析
多重せん断機構の概念に基づく土の構成モデルの改良
地震時の地盤・構造物系の被害を精緻に予測するためには、微小ひずみ領域から液状化のような強非線形領域に至るまでの地盤材料の力学挙動を適切に表現する必要がある。当研究室では、砂のような粒状体の力学モデルとして、多重せん断機構の概念に基づく土の構成モデル(カクテルグラスモデル)を提案している。このモデルは、土を多数の粒子が集まって構成される粒状体として解釈することから始まり、粒子同士の力の及ぼし合いによる内部構造の変化を表現することができる。
カクテルグラスモデルで、膨張的なダイレイタンシ成分を鉛直上向きに、仮想的な単純せん断ひずみを水平面内にプロットすると、砂粒の集合体の誘導異方性構造として図-3のような姿が現れる。このモデルは前述の数値解析プログラム(FLIP)にも組み込まれており、粒状体に特有のダイレイタンシや、それに伴う誘導異方性の影響を適切に考慮することが可能である。さらに当研究室では、応力誘導異方性に加えて、地盤の堆積環境等に依存する初期構造異方性の影響も考慮できるよう、構成モデルの改良を進めている。
図-3 二軸せん断におけるひずみ空間ファブリック
有限変形理論に基づく構成モデルの改良・地盤応答解析手法の開発
地盤は大きな地震動を受けると顕著な非線形性を示し、最終的には土の強度が失われ液状化に至る。このような液状化に起因した地盤・構造物系の動的挙動を数値解析で高精度に予測するには、変形の大きな領域まで含めた地盤挙動を適切にモデル化する必要がある。
そこで、従来の多重せん断機構に基づく砂の力学モデルを有限変形理論(大変形領域における幾何学的な非線形性を厳密に考慮した理論)に基づき拡張し、このモデルを組み込んだ地盤・構造物系の大変形解析プログラム(FLIP/TULIP)を開発した。本プログラムでは、有限変形理論のうち、Total Lagrangian(TL)法とUpdated Lagrangian(UL)法の両者を適用することが可能である。図-4はその一例であり、TL法とUL法の数値解析的な等価性を示すとともに、液状化の可能性のある地盤上の盛土の動的挙動に対する解析の妥当性を確認できる。
図-4 盛土を対象にした大変形解析の適用例
大地震時における群杭基礎の挙動に関する遠心実験
1995年の兵庫県南部地震の際、沿岸部の埋立地に建設された道路橋や重要港湾構造物などに用いられている杭基礎に、多くの被害があったことが報告されている。静的な水平力を受ける群杭基礎の挙動に関してはこれまでに多くの研究がなされているが、大地震時の飽和砂地盤における群杭基礎の挙動については未だ研究途上にある。
杭基礎の被害要因としては、上部構造物に作用する過大な慣性力によって基礎が大きく変位する場合と杭体に地盤から想定した以上の水平荷重が作用した場合の2つが考えられる。このことは杭基礎の耐震設計においては、上部構造物の慣性力だけでなく、地盤の慣性力をも考慮する必要があることを示唆している。本研究では、第一段階として、防災研究所現有の遠心力載荷装置(図-3)による模型実験を通して、原位置における上部工の慣性力と、地盤の振動による杭-土-杭間の相互作用を観察した。
図-5 京都大学防災研究所現有の遠心力載荷装置(半径2.5m)
長継続時間地震動と津波による地盤-構造物系の変形メカニズムの解明
2011年に発生した東日本大震災では、杭基礎で支持された鉄筋コンクリート製の建築物が、津波により倒壊するという被害が生じた。この被害には、津波の波力に加えて地盤の液状化現象が複合的に作用しており、津波と液状化による複合災害と考えられた。また、湾口防波堤では、地震と津波による複合災害、特に津波来襲時の湾内外での潮位差に起因するマウンド内への浸透流の発生と、これに伴う支持力不足に起因する防波堤の破壊という新たな現象が発生した。
そこで当研究室では、津波による防波堤の複合破壊機構について明らかにするため、捨石マウンド上に構築されたケーソン式防波堤を対象に、遠心場で擬似津波を発生できる土槽を用いて遠心模型実験を実施した(図-6)。実験の結果、浸透流を意図的に遮断したケースでは防波堤が倒壊しなかったのに対し、浸透流を許したケースでは津波と浸透流の複合破壊により防波堤が倒壊に至ることが明らかとなった。
図-6 遠心模型実験による防波堤の被災シミュレーション
遠心模型実験に対する拡張型相似則の検証
縮小模型を用いて遠心模型実験を行う場合、実物スケールでの土の応力~ひずみ関係を模型スケールにおいても同様に再現するため、遠心場の相似則を適用する必要がある。相似則により縮小模型を用いた実験が可能になるが、遠心力載荷装置の性能により縮尺率には上限があるため、通常の相似則では遠心場で表現できる実物スケールに限界がある。
そこで当研究室では、従来の相似則では困難であった大きな縮尺での遠心模型実験を可能とするため、実物と遠心場の間に仮想1G場を設けることにより、新たな相似則(拡張型相似則)を提案している(図-7)。また、地盤条件の違い(乾燥or飽和,水平or傾斜など)や杭基礎に代表される構造物の有無など、種々の条件に対して遠心模型実験を行うことで、拡張型相似則の適用性の検証を行っている。
図-7 拡張型相似則の概念図