計算科学
土木工学にまつわる問題の多くは、単一の物理現象ではなく、固体や液体、気体の力学現象、物質や熱の移動、化学変化といった複数の物理・化学現象が同時に起こるマルチフィジックス問題です。当講座では、土木工学にまつわるマルチフィジックス問題に対して、本質的・基礎的な理論から実問題を解く高精度・大規模な数値計算技術の開発まで幅広く取り組んでいます。
具体的には、材料の性質を記述するモデルの開発から、個々の物理現象を司る方程式を組み合わせた支配方程式の導出、コンピュータを用いた数値計算への実装、実問題・大規模問題への適用までを研究対象としています。モデルや数値計算の検証・改良過程で必要な室内試験や現地計測も積極的に行っています。一見、複雑に見えるマルチフィジックス現象を、できるだけ少なく簡潔な仮定を組み合わせることで巧みに記述することが当講座のテーマです。
教員
菊本 統 ( Mamoru KIKUMOTO )
教授(学術情報メディアセンター)
研究テーマ
土や岩などの地盤材料を対象に、基礎的なモデルやシミュレーション技術の開発を行っています。また、開発したモデルや解析手法の妥当性を確認するために、室内実験や現地での計測もあわせて実施しています。地盤材料は、固体・液体・気体が混ざり合った複雑で、魅力的な性質を持っており、その挙動を正確に予測するためには、従来の理論や解析技術だけでは限界があります。そこで私たちは、こうした課題を乗り越えるため、地盤の力学的・水理学的な現象を表現できる新しいモデルやシミュレーション手法の開発に取り組んでいます。開発した手法の検証を進めながら、学術情報メディアセンターのスーパーコンピューターを活用し、高精度かつ大規模な数値解析への応用にもチャレンジしています。
連絡先
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
吉田キャンパス 総合研究5号館219室
TEL: 075-753-7493
E-mail: kikumoto.mamoru.6xkyoto-u.ac.jp
研究テーマ・開発紹介
地盤材料の力学・水理特性のモデルの開発
地盤は固体・液体・気体の三相からなる混合系であり、複雑かつ独特な挙動を示す興味深い材料です。当講座では、こうした地盤材料の応答をより正確に予測するため、既存の地盤力学の限界を乗り越える理論の開発を目指しています。私たちの研究の根幹には、「ある現象を説明するために、必要以上に多くの仮定を設けるべきではない(オッカムの剃刀)」という哲学があります。この考え方に基づき、できる限り少ない単純化された仮定のもとで、地盤材料の力学的・水理学的挙動を合理的に記述できるモデルの開発に取り組んでいます。
図-1 粒度特性の刻々の変化を巧みに記述した3次元の限界状態面
粒状体のミクロ-マクロ応答の研究
合理的なモデルの実現には、地盤が多数の粒子からなる粒状体であるという本質的な視点が欠かせません。粒子間のミクロな相互作用が、集合体としてのマクロな応答をどのように決定するか理解することが重要です。当講座では、高精度な室内実験と粒状体解析技術を組み合わせて、粒子レベルの挙動とマクロな応答との関係性の解明を試みています。
図-2 粒状体のミクロ-マクロ挙動のシミュレーション
経験的工学から合理的理論への転換
従来、経験的にしか説明されてこなかった地盤の現象を、理論的に説明することで、予測可能な知識体系として再構築することを目指しています。具体的には、トンネルや盛土、切土などの土構造物を対象として、室内試験、現地調査、モデル開発、数値シミュレーションを統合的に行い、脆弱な地盤材料の風化過程を予測する技術の開発や土構造物の長期的な安定性の予測に取り組んでいます。
図-3 脆弱岩の風化と土構造物の不安定化のシミュレーション
地盤環境問題や学際的研究への貢献
当講座では、油や重金属による土壌汚染の過程を高精度に予測するために、基礎的な物理モデルの構築から数値解析技術の開発まで一貫して行ってきました。また、文化財の劣化現象の解明や維持管理技術の高度化に資するため、他分野の研究者とも連携して学際的な課題にも取り組んでいます。
図-4 油-水-空気浸透解析による土壌汚染のシミュレーション
図-5 都市トンネルと石積構造物の力学的相互作用に関する実験
研究室ウェブサイト