理念

社会基盤工学専攻の目指すものは次の5つに集約される。

1)工学基礎(Engineering Science)に基づく実験、計算科学の高度化

近年の地球環境問題の深刻化とエネルギー問題の顕在化は、工学的課題をより広範かつ複雑なものに変質させるとともに、地球規模問題の機動的解決に資する成果が求められる次元へと急速に変化し、実現象との比較を通じて、現実的かつ応用・展開性を常に意識した取り組みがさらに重要となっている。マルチフィジックスシミュレーション技術の構築を喫緊の課題ととらえ、工学基礎に基づくより広い視点からの総合的課題解決能力の学修を目指す。

2)自然災害のメカニズム解明と減災技術の高度化

安全・安心な社会の基礎としての社会基盤の創出・保全のためには、減災は重要である。自然災害の原因は、地殻変動と気候変動であり、地震災害、火山災害、風水災害、地盤災害などに分類される。近年は、温暖化など世界的に活発化する気候変動により災害がより広域化、巨大化、複合化する傾向にある。計測技術や災害予測法の高度化、広域ハザードマップ作成などの災害情報マネジメントや経済的で有効な災害対策技術の構築が求められている。減災技術構築のため、計算科学や計測・実験科学などの先端的工学基礎に基づいて技術的イノーベーションを実現することを目標とする。

3)社会インフラの統合的アーキテクチュアとマネジメント技術の高度化

インフラ施設の安全性と機能性を確保しつつ、期待されるサービス水準を着実に維持するとともに、成熟社会における社会インフラの創造と更新に際して、環境との調和や人間工学に立脚した快適性の追求を目指し、既存の社会基盤施設の維持管理に係る点検・モニタリング、診断、補修・補強・更新、長寿命化などに関する革新的技術、社会基盤施設の維持管理情報をデータベース化するGIS技術、維持管理コストの平準化と低減化を実現するマネジメント技術、景観・環境と都市防災を考慮した都市基盤施設と公共空間の計画設計技術などの開発により、先進国と急速に発展するアジア諸国を含めた社会インフラのマネジメント技術の高度化への貢献を目指す。

4)発展的持続性社会における地殻・資源エネルギーの利用

地殻内鉱物資源・エネルギーの探査・開発・生産や地下空間の安定的且つ持続的な有効利用、および地圏を利用する人工構造物の建設・維持・管理には、地殻に関する情報を整理し、地圏と人類社会の関係の理論的学理の構築および環境にやさしい実際論的な利用技術の開発が求められている。地下可視化技術の高度化、衛星技術などのリモートセンシング技術、GIS等の地理情報システムとの統合的解析技術や安全安心なロボティックス技術の導入など、急速な都市化の進むアジア諸国への技術移転を視野に、社会全体の要請に応える貢献を目指す。

5)低炭素社会実現に向けた諸問題解決への寄与

資源・エネルギーのリサイクルや効率的な利用に加え、既に大量に排出された炭酸ガスや原子力発電所廃棄物などの環境破壊物質の地中貯留、地層処分技術の確立など、低炭素社会の実現に向けた諸問題の解決に寄与するために、自然あるいは人工的要因による地殻内物理状態変化や流体循環などの現象解明を行い、その結果に基づいて殻内部環境に配慮した地殻利用技術、物理状態変化を把握する技術の進歩に対する貢献を目指す。