計算工学

社会基盤工学における課題の多くは、単一の物理現象ではなく、流体や固体の力学現象、熱や物質の輸送などが複雑に関係するマルチフィジックス(=多重物理)問題と見ることができます。当講座では、旧来の模型実験や、純粋な理論のみでは取り扱いが困難であったマルチフィジックス現象に対して、信頼できる解を確実に得るための計算工学手法の確立を目指しています。

具体的には、個々の物理現象を記述する支配方程式を組み上げ(この段階でモデル化が行われることもあります)、改良を加えた計算手法(差分法、有限体積法、有限要素法、境界積分方程式法等)を適用して離散化し、並列処理に基づくハイパフォーマンスコンピューティングにより解像度の高い近似解を得る、という過程のすべてが研究対象となります。これまで誰も予測し得なかった複雑なマルチフィジックス現象を計算機上でリアルに再現することが当講座のテーマです。

教員

牛島 省 ( Satoru USHIJIMA )

牛島 省教授(学術情報メディアセンター)

研究テーマ

非圧縮性流体の数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)に関する研究を進めています。最近は、流体と構造物の連成運動のように、異なる支配方程式により表現される複数の物理現象(マルチフィジックス現象)を統合的に扱う計算手法の開発を進めています。京都大学学術情報メディアセンターの並列計算機を利用して、得られた計算手法を社会基盤工学における実用問題へ適用する検討も進めています。

連絡先

〒606-8501 京都市左京区吉田本町
吉田キャンパス 総合研究5号館219室
TEL: 075-753-7493
FAX: 075-753-7493
E-mail: ushijima@media.kyoto-u.ac.jp

鳥生 大祐 ( Daisuke TORIU )

鳥生 大祐助教(学術情報メディアセンター)

研究テーマ

主に流体と固体間の熱連成問題に対する計算手法の開発を行っています。また、圧縮・非圧縮性流体を統一的に扱うことが可能な流体計算手法についても検討を進めています。開発した計算手法は、京都大学のスーパーコンピュータを用いて、社会基盤工学をはじめとする工学上の様々な実用問題に応用されます。

連絡先

〒606-8501 京都市左京区吉田本町
吉田キャンパス 総合研究5号館221室
TEL: 075-753-7496
FAX: 075-753-7493
E-mail: toriu.daisuke.8v@kyoto-u.ac.jp

研究テーマ・開発紹介

3次元非圧縮性流体の数値解法に関する研究

土木工学で扱われる水や空気の流れは,一般に非圧縮性の連続体(非圧縮性流体)として扱うことができます.近年の数値解法に関する検討や,コンピュータの発展などに伴い,このような非圧縮性流体の挙動を計算機でかなり正確に再現できるようになってきました.

高レイノルズ数の3次元非圧縮性流体の計算では, 1)非線形項(移流項)を精度良く評価すること, 2)保存則や非圧縮条件を十分満足する解を得ること, 3)演算を高速化すること,が特に重要です.これらを考慮して,当研究室では,コロケート格子(圧力と流速が同じ位置で定義される格子) に基づく有限体積法(FVM)による流体計算法の検討を進めています.これまでに,5次スプライン関数を利用する保存形スキーム(FVM-QSIスキーム),数値振動を除去するためのフラックス制御法(直接法およびフラックス・ポテンシャルを用いる方法),陰的解法(C-ISMAC法)などを提案しました.さらに,水と空気のように,密度差の大きい2流体を同時に扱う場合でも,安定かつ非圧縮条件を精度良く満足する解が得られる圧力計算法(C-HSMAC法) を提案しており,従来の解法(例えばSOLA法)より高速に収束解が得られることを確認しています.

以上の解法は,主として構造格子(直交座標系や境界適合座標系)で用いられますが,一部の解法は非構造格子でも利用できます.また,これらの解法の一部を,浅水流方程式や,非ニュートン流体の計算にも応用しています.

円柱背後の乱流渦の渦度の等値面
円柱背後の乱流渦の渦度の等値面

自由水面流れと物体運動の連成計算手法

自由水面を有する流れと,物体運動あるいは物体変形の連成現象を適切に扱える数値解法を構築することは重要な課題です.具体的には,海上の浮体構造物の挙動や,洪水・津波氾濫流による流木や浮遊物の輸送を適切に把握する計算手法が必要となっています.また,自由水面流れが植生や構造物等に及ぼす流体力を評価したり,それらの変形あるいは破壊を予測する手法を整備することも重要です.

このような複雑な連成問題に対する数値解法を構築するため,物体を含む自由水面流れを固気液相が混在する問題として捕らえ,マルチフェイズモデリングに基づく数値解法(MICS)を作成し,実験結果との比較を通じて,その有効性の検証を進めています.この解法では,物体に作用する流体力を体積積分から評価するので,解法が簡略で安定(ロバスト)であることが1つの特徴です.一方,接触を伴う物体運動を扱う解法として,T型モデルを提案しました. T型モデルでは,多数の四面体要素で物体が表現され,物体の慣性テンソルなどの物理量や,物体に作用する流体力は,四面体要素により評価されます.また,物体表面近傍に配置した接触判定球を利用して接触力を評価するので,衝突判定アルゴリズムが簡単になるという利点があります.

さらに,物体変形を扱う解法としては,有限要素法により線形弾性体の微小変形および有限変形を扱う方法を開発しています.このために,構造力学・固体力学の研究者の方とも情報交換を行っています.

tpod-cad  tpod-tetra  tpod-sph
(a) T型モデル(左からCADで作成した外形,四面体要素,接触判定球)

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(b) 水中を落下する直方体の計算結果(右端は実験結果)

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(c) 自由水面流れによる立方体ブロック輸送の計算結果
(ブロックや半円柱はT型モデルで表現されています)

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(d) 複数回の実験結果(赤マル)との比較

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(e) 水中投入された消波ブロックの積み重なり
(T型モデルにより複雑形状物体の接触運動が扱えます)

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(f) スリット部分に集積した流木モデル
(樹木モデルはT型モデルで表現されています)

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(g) 液面スロッシングにより変形する弾性板

流体計算への並列演算法の導入

3次元の高レイノルズ数流れの数値計算では,一般に大規模な演算が必要となります.特に,非圧縮性流体計算では,圧力に関するポアソン方程式の計算をはじめ,非線形項の高次精度計算や予測段階の陰的解法などの計算負荷が大きくなり,長時間の計算が必要となります.

このような大規模な流体計算を高速化するため,多数のプロセッサーで同時に演算を進める並列演算手法を導入しています.並列化手法には,大別すると, 1)プロセス並列(分散メモリ環境), 2)スレッド並列(共有メモリ環境), 3)それらをハイブリッド化した方法,があります. 1)に関しては,計算領域をプロセッサ数に応じて分割し(領域分割法),領域間にオーバーラッピングゾーンを設定して, MPIを利用する並列計算法を検討しました.この解法は,3次元境界適合座標系(構造格子)だけでなく, 3次元非構造格子(四面体セル)を用いる場合にも適用可能です.一方, 2)については,OpenMPを用いて,スレッド並列による流体計算の並列化を行っています.今後は,学術情報メディアセンターの並列計算機(T2K Open Supercomputer)を活用し,流体構造連成問題に対する並列化等を進める予定です.

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(a) 構造格子のオーバーラップゾーン

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(b) プロセス並列(HPC2500)

spup-thread
(c) スレッド並列(HPC2500)

研究室ウェブサイト

http://www.compe.media.kyoto-u.ac.jp/index.html